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こんなにも、愛しているのに
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10:2008/02/15 AM09:15


「説明を続けます。それでは次に、皆さんの首に巻かれているものについての説明を開始します」
 冷泉院閏(担当教官)がこの教室に来る前に、すでに何人かはこの首の異変に気づいていた。金属製のもので、強度がある首輪である。メカニックなものを嗜好としている結城鮎太(24番)がもっとも興味深々に見ていた。
「それは、爆弾ですからいじらないでください」
 首輪の話題に移り何人かが手を当てていじっていたが、急にその手が固まった。
「みなさんの首輪はM250と言いまして、プログラムで代々使われているタイプのものです。耐ショック製、耐水性、とにかくちょっとやそっとでは壊れません。皆さんの頚動脈のパルスを読み取ってこちらの本部に生きているかどうかの情報が送られてきます。電波を発していますが、地下に入っても圏外の場所でも通じます。特別な電波を送っていますので」
 また何人かがせわしく紙に要旨を書き込む。

「こちらの映像を見てください」 
教室前方の左方面、つまり鉄板のようなもので覆われた窓の天井からスライドが降りてくる。女性の兵士・右京(女兵士)が再び動き、今度は8ミリ映写機のような機械を廊下から持ち込んできた。 
スライドが明るくなった。もとより教室は蛍光灯が一部分だけついているので多少は薄暗い。 
映像の中には、衣服を着せるタイプのマネキンが横向きになっていて、胸より上が映し出されていた。その首には生徒と同じタイプの首輪が巻かれている。
「今からこれが爆弾であることを証明します。よく見てください」 
映写機の横に取り付けられた小さめのスピーカーから、ピピピ……という警告音のような音が聞こえてきた。どうやら銀色の首輪の、ちょうどのど仏あたりに位置する場所が赤く光っているようだ。そして警告音が途切れたと思ったとたん、爆発音を立ててマネキンの首が吹っ飛んだ。「ひゃああ!! び……びっくりしました!」藤堂花子(16番)が大袈裟に叫んだ。 
ディスプレイの中のマネキンには明瞭な変化が見えていた。頭部があったはずの場所はきれいさっぱり何もなくなっていた――つまり、首輪が爆発すると言うことは死ぬと言うことだ――

 もう既に3人死んでいる。そのうち2人は目の前で。だからこの首輪が爆発すると言うことも脅しではないだろうと悟った。高校生プログラムと言う現実離れしたことも、たった一人を除いた全員が死ななければならない確定未来も、誰もが認めざるを得なかった。
 ――これは現実なのだ。身の保身のためにも、ルールは確実に把握しなければならない。このプログラムが正しいのか如何はその後だ。
 各々の、人より早熟した理性がご丁寧にもそう告げた。


「この首輪が爆発する条件をお教えします。一つ目、時間制限である3日以内に優勝者が決まらなければ、その時点で生きている対象の首輪はすべて爆発します。2つ目、24時間以内に一人も死亡者が出ないときも爆発します。これはある程度の戦闘を促すためです。そして3つ目、これはよく聞いてくださいね」 
冷泉院は先ほど取り出して黒板に張った観光ガイドブック地図にまた黒マジックで書き込んだ。先ほどは一キロ四方の四角を書いただけであったが、今度はそれを縦に10、横に10のエリアに区分した。
「これが禁止エリア、と呼ばれるものです。これは通常のプログラムにも組み込まれているもので、対象者の移動を促すためのエリア収縮、と思ってください。そして今われわれのいる本部はここにあります。この町の小学校です」 
ほぼ中央に存在する「文」のマークが入ったところを丸で囲み、そのエリアに斜線を引いた。「まずこの小学校があるエリアは、皆さんが全員ここから出発したあと20分後に禁止エリアになります。この禁止エリアに入ると、皆さんも先ほど知ってのとおり、首輪が爆発します。なのでいつまでもこの辺りをうろうろしないでくださいね。死にますよ」 
死ぬと言う単語に普段よりもさらに敏感になったようで、親友の西園寺湊斗(7番)や柊明日香(20番)を失った平野小夜子(22番)は嗚咽を耐えずに小声で泣き出した。いわゆる不良と呼ばれていたグループで、クラスでもアウトローな存在であったために、周りもどう対応していいのかわからず結局クラスの誰からも親しまれている栗原壱花(5番)がその隣に座って優しく背中をさすった。彼女の大きな掌が動くたびに小夜子は肩を上下に動かして嗚咽を漏らした。

 冷泉院の説明はそれでも続く。
「禁止エリアは2時間ごとに増えていきます。一度禁止エリアになったらいつまでも解除されません。ずっと禁止エリアです。この禁止エリアは6時間後との定時放送でお伝えします。その際には、夕方のチャイムのようなものでお伝えしますので、エコーはかかると思いますが、音は聞こえるでしょう。流す時間は0時、6時、12時、18時といった調子です。禁止エリアと首輪について何か質問は?」
 すぐさま手が挙がった。積極性のある、疑問を持ったらすぐに質問するタイプの人間はだいたい限定されている。そのうちの一人、井沢望(02番)が指名された。
「その禁止エリアと言うものは、明確な線引きとかされているのですか? それとも目測ですか? それならば禁止エリアに引っかかる確率が格段に上がると推測されます。それに、禁止エリアには一歩踏み込んだだけですぐ首輪が爆発しますか? もちろん、その禁止エリアの周囲に近寄らなければいいのだということは承知していますが」
 彼女は配られたメモ用紙以外に、私物であろう、小さなメモ帳を持っていた。
 自分の家から学校まではカーナビつきの送迎車で、地図を読むという体験はせいぜい社会や地理の授業のごく限られた地域のことしか経験の無い。彼女らしい質問だった。
「一応そのあたりは配慮されていますよ。禁止エリアに足を踏み込んだ際には、警告音がまず鳴ります。それから10秒後に首輪が爆発します。ただし、先ほど言いましたようにあなた方が24時間誰も死者を出さなかった場合や、3日間の時間制限を守らなかったとき、およびプログラムの進行に支障をきたすような行為をした人には無警告で首輪を爆発させます。よろしいですか」
「プログラムの進行に支障をきたすような行為とは?」望は続けて尋ねた。
「それはあなた方の判断にお任せします」
「当事者は支障をきたすような行為とは考えていないかもしれないのに、あなた方が判断したら一方的に首輪を爆発させるのですか? 勝手に首輪が爆発させられたほうは無駄死にになるとは思いませんか」
 思考を巡らせることは人一倍長けている望は、まるでここがディベート会場であるかのように相手の論理の矛盾点を突いて畳み掛けた。
「そのあたり、しっかり定義づけしていただけるとありがたいのですが」
 論争に熱くなりすぎたことを反省してか、まとめの言葉は端的にした。


 けれど冷泉院が問いに答える前に、大柄の男兵士が一歩前へと出て望に歩み寄った。そして両手に握っていた拳銃を両方とも望の額に押し付けた。「あひゃひゃひゃ!! ごちゃごちゃうるせえんだよインテリ女が!! 閏先輩を困らせるようなヤツぁ今すぐ俺が脳天ぶち抜いてやるよ!!」 何のためらいも無く綾小路(男兵士)は両手の拳銃の引き金に指をかける。その指が引かれる寸前に「やめてください綾小路さん!」という冷泉院の声がした。
 綾小路の引き金の指がゆっくり離れ
「はぁーい。閏先輩がそぉいうんならぁ、それでもいいけどぉ」
 としぶしぶ銃をおろす。冷泉院の姿は、まるで猛獣を従える調教師のようだった。

「ごめんなさいね、井沢さん。ではこうしましょう。24時間誰も死ななかったときと3日間のタイムリミットは無警告、それ以外は必ず警告をしましょう。それでいいですか?」 本物の拳銃の硬い感覚をじかに突きつけられた望は、さすがに足がすくんでしまって、ただ頭を縦に振ることしかできなかった。それでも綾小路の拳銃が頭から離れて我に返ったのか、「わかりました。メモしておきます」と答えることができた。

「死は対等に誰にでも訪れます。私も、そしてこちらにいる右京さんも綾小路さんも、いずれは死ぬでしょう。皆さんは死を意識したことがありますか?――おそらく無いと思います。私もかつてそうでした。プログラムは生きることの大切さを学ばせてくれます。教科書にかかれたことではなく、その身をもって。私もプログラムに絶望しました。ですが得るものもありました。そうして今ここにいます。あなたたちにも、死ぬ気で生きることの本質を極めて欲しい」

 要点を瞬時に聞き分けて板書することに集中していた生徒たちも、この冷泉院の言葉には要点が無いことに気づいて顔を上げた。

それはただのエッセイのように、それはただの呟きのように。






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